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名古屋地方裁判所 昭和57年(わ)1138号 判決 1983年1月21日

本店の所在地

愛知県岡崎市伝馬通四丁目二〇番地

法人の名称

株式会社金岩鈴木金物

代表者の住居

愛知県岡崎市伝馬通四丁目二一番地

代表者の氏名

鈴木岩夫

本籍及び住居

愛知県岡崎市伝馬通四丁目二一番地

会社役員

鈴木岩夫

大正一〇年一二月一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北岡英男出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社金岩鈴木金物を罰金一、〇〇〇万円に、被告人鈴木岩夫を懲役六月にそれぞれ処する。

被告人鈴木岩夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社金岩鈴木金物(以下「被告会社」という。)は、愛知県岡崎市伝馬通四丁目二〇番地に本店を置き、建築用資材・家庭用金物の販売事業を営むもの、被告人鈴木岩夫は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであるが、被告人鈴木岩夫は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部除外などの方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三、八四八万四、七五六円で、これに対する法人税額が一、四三四万三、八〇〇円であるのに、同五四年八月三〇日、同市明大寺本町一丁目四六番地岡崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五五一万三、二二〇円、これに対する法人税額が一三五万三、五〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一、二九九万二〇〇円を免れ、

第二  同五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四、九三一万四、三四三円で、これに対する法人税額が一、八八二万九、〇〇〇円であるのに、同五五年八月二八日、前記岡崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六八一万八、一四七円、これに対する法人税額が一八七万三、〇〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一、六九五万六、〇〇〇円を免れ、

第三  同五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四、二三六万八、五〇六円で、これに対する法人税額が一、六七七万九、〇〇〇円であるのに、同五六年八月二八日、前記岡崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九〇万一、六八五円、これに対する法人税額が二三三万四、三〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一、四四四万四、七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人株式会社金岩鈴木金物の代表取締役であり、かつ被告人である鈴木岩夫(以下この欄においては単に「被告人鈴木岩夫」という。)の当公判定における供述

一  第一回公判調書中の被告人鈴木岩夫の供述部分

一  被告人鈴木岩夫の大蔵事務官に対する質問てん末書九通

一  被告人鈴木岩夫作成の上申書二通

一  鈴木泰子及び鈴木勝巳の検察官に対する各供述調書

一  鈴木泰子(三通)、鈴木勝巳、藤井實雄、鈴木雅子、加藤康裕、磯野良治、光田礼次郎、田辺要二及び木戸賢吉の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  鈴木泰子作成の上申書

一  名古屋法務局岡崎支局登記官作成の商業登記簿謄本(被告人株式会社金岩鈴木金物に対する関係でのみ)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一二三号)及び査察官調査書七通(「たな卸金額について」「五六年六月期の売上総利益率について」「未納事業税について」「簿外経費について」「簿外預金等について」「青色取消益について」「簿外現金について」とそれぞれ題するもの)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(「五五年六月期及び五四年六月期の売上総利益率について」と題するもの)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(「有価証券等について」と題するもの)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一一七号)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一一八号)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一一九号)及び査察官調査書(「税務調査後の処理等について」と題するもの)

(法令の適用)

被告人株式会社金岩鈴木金物の判示第一及び第二の各所為は、いずれも昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に、判示第三の所為は右改正後の同法一六四条一項、一五九条一項に、被告人鈴木岩夫の判示第一及び第二の各所為は、行為時においては右改正前の同法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の同法一五九条一項に、判示第三の所為は、右改正後の同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人鈴木岩夫の判示第一及び第二の各所為については、犯罪後の法律により刑の変更があったときに当たるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人鈴木岩夫については、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は被告人両名につきいずれも同法四五条前段の併合罪であるから、被告人株式会社金岩鈴木金物については、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金一、〇〇〇万円に処し、被告人鈴木岩夫については、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件犯行は、売上げの一部除外などの方法により所得の一部を秘匿した上、三事業年度にわたり虚偽過少の申告をして、その法人税合計四、四〇〇万円余をほ脱していたという事案であるが、そのほ脱税率は平均八八・九パーセントと相当に高率であり、また、売上げの一部除外につき、途中税務調査を受けた際不正が露見しそうになるや、これを隠蔽するため以後は終業後にレジの打直しを行なうなど一層巧妙かつ計画的な手段を用いて犯行を継続したものであって、犯情は悪質であり、その納税に対する規範意識も相当に鈍麻しているのではないかと推察されるなど、被告人両名の刑は重大である。しかしながら、犯行発覚後は卒直にこれを認め、修正申告をなすと共にほ脱に係る法人税をはじめ重加算税、延滞税等本件不正行為に起因する税は全て納付していること、被告人鈴木岩夫については、未だ服役経験を有せず、昭和四五年、業務上過失致死罪により罪金刑に処せられたことがあるに過ぎないことなどその有利な事情も考慮するとき、主文掲記の刑をもって相当と判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水谷富茂人 裁判官 服部悟 裁判官 宮崎万壽夫)

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